YPM-072
宮之上貴昭
「THE MASTERS」
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【THE MASTERS】 宮之上氏からライナーノーツを頼まれるの
は、Illusion(伊藤実千代)、Sweet& Lovely(熱田修二)以来、これが3回目とな る。今回の作品は、国内の活動はもとより、
海外のジャズフェスティバルにも宮之上に 同行している岡淳(ts,fl)と吉岡秀晃(pf)、 そして売れっ子の井上陽介(bs)と大坂昌
彦(ds)という日本を代表する豪華メンバー が勢揃いして、「THE MASTERS」のふ さわしいタイトルになった。収録曲はすべて
宮之上のオリジナルということからも、この 作品にかける意気込みが感じられる。しか しながら、名手が5人揃ってレコーディング
したとなると、セッション的な作品になったの では?と懸念する向きもあるだろう。ところが、 である。演奏は宮之上を山頂とするなら、
サイドメンがその裾野を大きく広げているの だ。1曲目を聴いた瞬間からそのことを理解 出来よう。個々の演奏が素晴らしいのはも
ちろんのこと、宮之上ワールド全開の収録 内容となっている。
1.Nigeria ソニー・ロリンズがNigeriaを逆から読んで作曲したAiregin。これをさらに戻し
たという、ユーモアたっぷりの曲名だ。したがって、Aireginに基づくコード進行
で演奏されている。タイトルのエピソードとは裏腹に、1曲目から火の出るような ソロの応酬が繰り広げられる。スタートにふさわしい快演だ。 2.Elle
スタンダード?と思えるほど、自然な流れの曲想。宮之上は、ともするとテクニック ばかりが重視されがちだが、歌心に満ち溢れていることがこの演奏からも納
得出来る。長年共演している岡や吉岡もスイングしている。特筆すべきは井上 陽介のテクニックに裏付けされた的確なバッキングとソロだ。素晴らしい録音
も相まって、実に気持ちの良い演奏になっている。3.Confliction ファンキーでアーシーな曲で、タイトルは「衝突」や「対立」という意味がある。
新型コロナと衝突、対立しながらも、必ず苦境を乗り切る、という思いを込めて 書いた曲だそうだ。強力なリズムセクションの上で自由自在にソロを取る宮之
上。続く岡の力強いソロと、吉岡のキレの良いソロも作品を引き立てている。4.Mellow Hometown
宮之上が長年住んでいるホームタウンへの思いを込めて書いたのだろう。プ レイはエモーション溢れている。しばしば登場するベースのパターンが印象的
だ。それにしても、宮之上がビ・バップとはほど遠い?このようなメロウな曲作りも するとは意外でもあったが、そういえば、かつてSunset
StreetやRainy Afternoonというメロウな佳曲も書いていたことを思い出した。
5.Blues for T & M
友人に捧げたというスローブルース。イントロからテーマへと、テナーとギター の息の合ったユニゾンが心地良い。宮之上のプレイは、ブルースフィーリング
を根底にしながらも、モダンコード進行をしっかり捉えている。続く岡の豪放な テナーと吉岡のファンキーなソロも注目に値する。 6.ASAMOYA
岡淳はサックスより先に学んだのがフルートであった。ここでは彼のフルートを フィーチャーして、ボサノヴァで演奏している。宮之上はホームタウンの朝の公
園をイメージして書いたという。タイトルのようにアサモヤの中を歩いているよう な感覚に浸る美しい曲だ。 7.Rope-a-dope
ボクシング・ヘビー級王者、モハメッド・アリが、アフリカのキンシャサで、ロープ
際から捨て身の大逆転KOをしたことを「Rope-a-dope」というそうだが、宮 之上はその様子を曲にしたという。言われてみれば、テーマの最後の方で
「ワン、ツー」とパンチを当てているようにも聞こえる。全編にアーシー&ブルー ジーな雰囲気が漂う演奏になっている。 8.Do! doing
アルバム最後はWoody’n Youを基にした宮之上の真骨頂、ビ・バップど真ん
中の曲だ。岡〜吉岡とスピードあるダイナミックなプレイから宮之上へのバト ン。ここからドラムとのバース。大坂昌彦が圧巻のソロを繰り広げる。
ジャズ評論家 佐藤 博